「お前の正体を知っただけで逃げ出すとは、面白い奴等だな」

相変わらず無表情の少女が黒獅子の元へ歩み寄る。

『貴様が出てこなければ、この場で消したものを』

獅子が少女を軽く睨む。

「お前はいつから人殺しが好きになったんだ?」

『主の為なら容赦はせん』

「この子がそれを望むと思うか?」

少女はしゃがみこみ、莉人の頬に触れた。

「おかえり、莉人」

少女が僅かに微笑んだ。



『……また、争いが始まるのか』

少女の行動を黙って見ていた獅子が呟いた。

「皮肉な運命だな。最も平和を望んでいた者が争いの火種となるのだから」

そう言って目を伏せた少女をよそに、獅子は林の奥を凝視していた。

「そう警戒するな」

少女は顔を上げた。

「遅かったな、芝」

少女が見つめる先にはアクイラとその主人である男。

「えッ、学園長!?」

男は驚きのあまり思わず後ずさりした。

「お前は本当に予想外なことをしてくれる」

「す、すんません」

少女は、平謝りする男に背を向けて歩き出した。

「今度は落とすなよ」

振り向かずにそう言うと林の闇に消えた。

男は頭を掻きながらその姿を見送った。