「ありがとう」

綾は、遠慮気味に受け取りながらも、嬉しく思っていた。

「良かった。受け取ってくれて」

修は、綾を見つめて微笑んだ。


【女子が話かけると、いつもクールで無愛想に見えるけど、こんな笑顔をするんだぁ】

綾は、修を見ながら、新鮮な気持ちだった。

「早乙女さん、合格おめでとう」

「ありがとう。え?…」
「音大、合格」

「えぇ」

修が、自分の合格を知っていたことが、綾は不思議だった。

【何で知ってるんだろう。気にしてるわけじゃないでしょ…?まっ…、クラスメイトだし、たまたま耳に入ったのかな。まさか、クラスメイト皆のことをインプットしてるとか?…なぁんて】

綾は、笑いそうになり、堪える。

「ずっと前に聞いた時、教えてくれなかったよね。まだ、受かるかわからないから、って。早乙女さんの、そういう慎重なところ、好きだなぁ」

修は、さらっと言った。

あまりにさらっと言ったので、綾は、聞き流そうとするところだった。

【ん?……あ、彼は、そういう人なのか。さらっと言えるのね】

綾は、すぐに思いなおした。

綾が、何も言わないので、修は、ひとり呟く。

「あれ…。流されちゃっな」

そして、綾に尋ねた。

「早乙女さん、鈍感?」

「え?……鈍感だなんて、失礼だわ~」

綾は、少し膨れ面になる。

「ごめんっ。あぁっと…あ、天然?…いや、違うな」

修は、ひとり考え込む。