eye

私は恐る恐るケータイに手を伸ばす。



{美里}


「今日はありがとう」

「高弘に話し聞いてもらって元気になったよ」


今日はありがとう?


今日は私と一緒にいたはず。


私と会う前?



残業…



残業ではなかった?



がたがた。


高弘が出てきた。



でも私は高弘のケータイを持ったまま動けなかった。


やっぱりケータイなんて見るもんじゃない。


[どうしたの?]

[あ、ケータイ鳴った?]






高弘はケータイの画面をのぞきこんだ。


[あ、]

私はケータイをテーブルに置いた。



高弘も私も黙ったままだった。


しばらくして話しはじめたのは私のほうだった。


『ごめんね。』


『ケータイ勝手に見て』


『こんな時間にケータイ鳴ったから』


『なにか悪い報せだったら教えなきゃと思って。』






『ごめんね。』




『元カノに会ってたのも何か事情があったんでしょ。』



『大丈夫。』


『私気にしないから』



心にもないことを言った。



『高弘?』


[ごめん。]



一言だけだった。



私は本当は心の中で期待していた。


高弘ならいつもみたいに明るくごまかしてくれると思った。


[朱莉ごめん。]


いつになく真剣に謝られる。