嶋田は、実在した。勲の直属の部下だった。かなり昔になるが、勲が接待ゴルフにつき合わせた事をきっかけに、何かと玄関先に顔を覗かせる機会が増えた。

度々、夫を送り迎えする嶋田の顔を、妻である智恵子が覚えないはずはなかった。

そのうち、嶋田は、勲を送り届けたその足で、智恵子に呼び込まれ、夕食をご馳走になるなどという事にもなった。

「吉岡さん、奥さんは何か好きな果物とかありますか?」
「なんだ?礼ならいらないからな、あれはうちの余りもんをお前に整理してもらってるだけなんだからな」「もしかして俺って、残飯整理してるんすか?」
「そうだ、かみさんがよく食ってくれるから、ありがたいっているよ」
「いや、でも少しはお礼させて下さいよ、ご馳走になるばっかりじゃ…」
「強いて言うなら、スイカじゃねぇのか、夏じゃなくてもスイカが食べたいってよく言ってるぜ」
「了解しました!スイカですね!」

翌週になり、季節外れにも関わらず、真っ赤な大玉スイカが勲の自宅へ届けられた。

「あらいやだ、あなた、嶋田君にまさか催促したんじゃないでしょうね?」
「俺が、昼休みに智恵子がスイカが好きだって言ったのを聞いてたんだろう?」