「そうよ、ボジョレー・ヌーボー解禁の季節にはよく買ってくれて、お土産に持たせてくれたわよ」
「あはは、そうだったな、言っておくよ、智恵子がワインを飲みたがっていたってな」
「やだ、催促してるんじゃないからね」
楽しそうな夫婦の会話を、早苗は隣で息を殺しながら聞いていた。その後は決まって、心臓の裏側のあたりが、ギスギスと音をたてた。
電話を切った勲が、無言で早苗を抱き寄せる。早苗は、さりげなくその手から離れて、洗面台に立った。
「私は、嶋田君」
「…早苗」
「奥さんは、ワインは赤と白、どっちが好きなの?」「…コンビニでヌーボー売ってたよな?」
「答えてよ、嶋田君は私なんだから、私が奥さんに買ってあげたいの」
「今夜は、いいよ」
「赤なの、白なの!?」
「…早苗…」
久しぶりに、勲が困った顔をした。少し悲しそうな、それでいて諦めも見え隠れする、その表情。
「ロゼだよ…」
次も、その次も、勲の妻は、能天気に弾んだ声で電話してきた。その度に、嶋田君は、智恵子さんに何かお土産を買ってあげる羽目になった。
早苗は、意地になって、忠実に智恵子の注文に応じ、智恵子の思うがままになっていた。
「あはは、そうだったな、言っておくよ、智恵子がワインを飲みたがっていたってな」
「やだ、催促してるんじゃないからね」
楽しそうな夫婦の会話を、早苗は隣で息を殺しながら聞いていた。その後は決まって、心臓の裏側のあたりが、ギスギスと音をたてた。
電話を切った勲が、無言で早苗を抱き寄せる。早苗は、さりげなくその手から離れて、洗面台に立った。
「私は、嶋田君」
「…早苗」
「奥さんは、ワインは赤と白、どっちが好きなの?」「…コンビニでヌーボー売ってたよな?」
「答えてよ、嶋田君は私なんだから、私が奥さんに買ってあげたいの」
「今夜は、いいよ」
「赤なの、白なの!?」
「…早苗…」
久しぶりに、勲が困った顔をした。少し悲しそうな、それでいて諦めも見え隠れする、その表情。
「ロゼだよ…」
次も、その次も、勲の妻は、能天気に弾んだ声で電話してきた。その度に、嶋田君は、智恵子さんに何かお土産を買ってあげる羽目になった。
早苗は、意地になって、忠実に智恵子の注文に応じ、智恵子の思うがままになっていた。
