早苗は、セックスの後、勲の少し癖のある髪を撫でるのが好きだった。

そうしてしばらくすると、勲は寝息をたてる。耳元で、湿気を帯びた生温かい吐息を感じるのは悪くない。規則的な呼吸、時折、微かないびきが聞こえてくると、早苗は、勲の髪からそっと手を放しベッドを抜け出した。

いつものラブホテル、いつものソファ、種類の違う煙草が、ふたつ並ぶガラステーブル。早苗は、煙草の煙を深く吐き出しながら、ソファの角で裏返る勲の携帯を見つめていた。

世の中の女は、かなりの割合でパートナーの携帯を盗み見るらしい。早苗には、その気持ちが全く理解できなかった。どうせ何もいいことなどないに決まっている。

早苗は、携帯から目を反らすと煙草を揉み消して、洗面所に立った。鏡を見ながら、乱れた髪をブラシでとかす。使い捨てのプラスチックのブラシに、ゆるい曲線を描いて一本の髪が残った。

こんな時、いつも思う。おもむろに脱ぎ捨てられた勲のシャツの背中の繊維に、この長い髪を絡ませてあげたらどうなるだろうか。
早苗は、シャワーを浴び身支度を整える。少しすると勲が目を覚ます。
早苗が化粧を始める頃になると、今度は勲がシャワーを浴びた。