神様ごっこ





私の足は自然とあの時の森に向かっていた。

さすがにもういないだろう。帰る場所がない、人間じゃない、前者は有り得るけど後者は絶対にない、絶対に。


セミが元気よく鳴いている、色んな種類の色んな音が混じった不協和音は夏らしく、とても暑苦しかった。

太陽の光が生い茂る木々によって遮られている為なのか、道路を歩いていた時よりも涼しく感じる。

よく考えてみれば、この森をじっくり歩いた事なんて数える程しかない。

昨日の夕立で出来た水溜まりを跨いで、背の高い草を退かして、しばらく道沿いに歩いていくと、森を抜けた。そして古ぼけた神社が私の目の前に現れた。



「うっわー……」



見れば見るほどボロボロだ。鳥居の色はくすんでるし所々剥げているし、賽銭箱の横には穴が空いているし、屋根だって壁だってボロボロだ。

まだ夕方で明るいというのに、この不気味さ。

いくら大雨だったとはいえ、ここに雨宿りしようとは思わないだろうが昨日の私どうした。



「……確かに何かいそうだけど、さすがに」

「おい」

「…………」

「こっち」



声のした方、古ぼけた鳥居の上を見上げて



「…………は?」



口をポカンと開けたまま固まった。

きっと凄く間抜けな顔をしてるだろう私の視線の先で、鳥居に腰掛けて足をぶらぶらと揺らしている男。少し長めの黒髪とその下の明るい茶色の瞳、昨日は真っ暗で何も見えなかったけど、分かる。

昨日の、あの男だ。