「あのさ、………その、」
「んー?」
言い出せない私を急かすことなく、歩くスピードだけ少し落とす皇に気付くこともなく、私は目を伏せて気持ちを落ち着かせて、
「……アイス、買って帰ろっか」
「いいねー、俺ボリボリ君の梨」
………言えなかった。
楽しそうな横顔をチラリと見て、気付かれないように小さく溜息をついた。いつか必ずバレてしまうのに、後になればなるほど良くないことだと分かっているのに、それでも、
ギュッと手を強く握られた。
驚いて顔を上げると皇は優しい笑顔で私を見ていた。分かってるんだ、私が違うことを言い出そうとしたことを、分かっていて、何も聞かないし問い詰めることもしない。
ただ笑う、ゆっくりでいいよ。そんな意味を含んだ笑みに私は何度も救われ、何度も思い知ることになるんだ。
この笑顔が自分に向けられなくなったら、そう考えてしまって、言えなくなる。
伝えなきゃいけないけど、怖い。
まだ夏休みは始まったばかりなのだ、大丈夫、ゆっくりタイミングを見つけて言えばいいんだ。
「………私もボリボリ君にしよっかな」
「やっぱアイスといえばボリボリ君だね」
「そうだね」
まだ夏休みは始まったばかり
ごめん、皇。ちゃんと、言うから
もう少しだけ、待っててほしい

