教室でパート練習をする吹奏楽部が奏でる音色に耳を傾けながら、少しだけウキウキした気持ちのまま昇降口へと続く階段を降りていくと、下駄箱の前に立っていた男子がこちらを見て笑った。
「ココ」
ふわり、と柔らかな笑顔に似合うライトブラウンに染められたフワフワの髪が夕方の西日を受けてキラキラと輝いている。
「ごめん、先帰っててよかったのに」
そう言いながら早足で階段を下って駆け寄るとその男子は首を横に降って、そして私に手を差し出してきた。
「一緒に帰りたかったから勝手に待ってただけ。ほら、帰ろ」
「………うん、ありがと」
「どういたしまして」
差し出された手を取ってぎこちなく笑った私に、そいつはまた笑った。楽しそうで、自然で、そう、屈託の無い笑顔。笑顔が苦手な私と正反対なその笑顔は私には眩しすぎて、そっと目を逸らした。
そんな男子、上野皇は私の幼なじみだ。
保育園から高校の現在に至るまでずっと同じ学校だったから仲がいい。友達がたくさん出来た今でも、本音で話せる数少ない親友で大切な存在。
「……皇、」
「なあに?」
そう、皇は親友だ。
だからこそ私は皇に言わなければならない。

