きっと、莉緒は今から自分で鍵を開けて……
自分で電気をつけて……
たった一人でこの家にいるのだろう……
「皐……」
「………」
タクシーから下りた莉緒が、じっと俺を見つめる。
俺には似合わない、綺麗な瞳。
俺になんか向けちゃいけないような、そんな優しい瞳。
「今日は、ありがと」
「っ……」
おかしいだろ。
なんでお前が、お礼言うんだよ。
「あたしも久しぶりに楽しかった。」
『楽しかった』そう言う莉緒の瞳には、涙がうっすら浮かんでいた。
きっと、莉緒はわかってるんだ。
今日が明けたら……
ここで俺と別れたら……
俺は、もう莉緒に会わないってことを………
わかってるから、そんな瞳をするんだろう?
出会ってたったの数日。
時間にしたら、何十時間。
それなのに、お前の存在は強すぎるくらいに俺の中に刻まれた。