「え、あゆ…」

名前を呼びかけた瞬間。

唇にやわらかい感触。目の前に広がるのは端正な歩くんの顔。




ようやく自分が何をされていることに気づき



「やめ…っ」

突き放そうとするけどがっしりとつかまれた体は動けない。


目の前に机があるのに乗り出してまで私に近づく歩くん。



何か…違うよ。

いつもの歩くんじゃない…!


こんなことしちゃだめだ、と思うのに男の子の力には勝てないのが現実。





「初心…、」

いつもと違う甘い声に戸惑いを覚える。

触れた唇が離れた今もおでこ同士は重なっていて結局心臓の速さは変わらない。




「や、めて」

蚊の鳴くような声でそういった。

突き放そうと腕を勢いよく前に押すけれど鍛え上げられた体に私の力なんてあまりにちっぽけなものだった。


「うそだ」

「嘘じゃない…!」

押しても無理だと分かった私は勢いよく椅子を引こうとする、がしかし。



それは無意味。

がっしりとつかまれた二の腕は動かなかった。