モラトリアムを抱きしめて

「初美さん……」

そう呟いたはっちゃんの目にもう涙はなかった。そっと私の手と自分の手を重ねる。

やっぱり温かい手。

その手が少しぼやけて見えた。

「はっちゃん!」

消えかける手を一生懸命握った。

「私、私……」

私はあなたを救えたのかな。

護れたのかな。


最後に、にこっと笑ったはっちゃんの口元が何か言おうとしていたけれど、何と言っているのか私にはわからなった。


やがてそこには、何もなくなり、またザワザワと木々が鳴く。