モラトリアムを抱きしめて

あの日、いつも母が置いていく千円札を私は持ち出した。

なんでだっけ?

何か大切なものを買うためだったという事しか思い出せない。

その千円札の重みは誰よりも知っていた。

いつ帰るかわからない母親。兄と二人、それは私たちの生命線だった。

それと同じくらい、または、それよりも大事な何かを私は護ろうとしていたんだ。

冷たく苦しい風の中―…

悲しみと怒り、そして悔しさをぎゅっと千円札と一緒に握って走った―…


あ、れ?


私は似たような……いや、同じ状況の子をよく知っている。

……でも、なんで?


あれは――……