モラトリアムを抱きしめて


「――初美ちゃん?初美ちゃん!」

おばちゃんの私を呼ぶ声。私を支える手。

それらを振り切って狂ったように走りだしていた。

狂った方が楽だと思った。

狂いたかった。

全てを忘れ、自分を無くし、生きることを拒み、誰にも見えない存在に――


涙も鼻水も垂れ流したまま無我夢中で走った先は、すぐに行き止まり。

海が私をそれより先には行かせなかった。

行ってしまえばどんなに楽だろう。


行く理由は沢山あるのに、行かない理由は何なんだろう。

いつもいつも、あと一歩で私を止める。


私が私を止めるんだ。