モラトリアムを抱きしめて

頭の痛みに波があるように、はっきりと思い出せる事とぼんやりとしか思い出せない事があるらしい。

私はまだ何かをナイモノにしているのだろうか。

記憶の中の母はいつも綺麗だった。

綺麗に着飾り、穏やかな口調で話す。

怒られた記憶はない。

しかし、褒められた記憶もなかった。

夕焼けがカーテンの隙間から射し込む時、母は古いアパートを出ていく。

そうして1週間や10日は帰ってこないのだ。

オレンジ色の中の黒いシルエットは、母の後ろ姿をより美しくして。

眩しい光が幼い私を隠していた。