モラトリアムを抱きしめて

「――さん!」

キーンと鳴るほど静かで暗い場所、耳鳴りだけが聞こえているかのような空間ではっちゃんの声が、はっちゃんの声だけが聞こえた気がした。

優しい音色。


次に気付いた時には涙の跡を頬につけて、ベンチに座っていた。

濡れた唇が少しだけしょっぱい。

温かい方を見ると、はっちゃんが寄り添うように手を繋いでいてくれていた。

何が、私に何が起きているのだろう。

意識がはっきりしてくると急に恐ろしくなり、また勝手に涙が出ていた。

わからない。

恐い。

恐怖で震える私の手をはっちゃんは、ずっとギュッと握ってくれていた。

はっちゃんが居てくれてよかった。

不思議だけれど、ピンチの時にかけつけてくれるヒーローよりも心強い存在だった。