ホークなら、王妃様の反対を押し切ってあたしを連れ帰る事も出来るだろう。

けれどそれでは、王妃様のささやかな権威を傷つける事になる。


「アレクサンドラ」

王妃様が、書き物机から顔を上げて言った。


「はい、王妃様」


「そなたの希望を聞くのを忘れていましたね。やはり帰りたい?」


王妃様の後ろに立っているジェニスタが、顔をしかめて首を横に振った。


「いいえ、まだ」

あたしは笑みを浮かべて答えた。


王妃様がほっとしたような笑顔を見せた。


「ただ、もうすぐ幼なじみが結婚するんです。織機と糸をアルス伯に頼んでもよろしいでしょうか? 祝いの品を作りたいのです」


「織機なら修道院にありますわ」

ジェニスタが口を挟んだ。

「糸はわたくしの実家から送ってもらいましょう。わが家の方が、ずっとこちらに近い事ですし――あら、気にしないで。あなたはお友達ですもの」