「アーシェ、明日出発するのに家まで払ったんだってな」
「おうよ!」

相変わらず図太い手に小さなジョッキを持って、マスターがあたしに声を掛けた。

「そんなに急いで出るこたぁねぇのに、この馬鹿め」
「いいじゃないか。約束どおり金は渡しただろう?」

「まさか本当に集めてきやがるとは。大した女だよ、お前は。行く宛ては決めてあるのか?目的のない旅ほど疲労するもんはねぇ」
「決めてあるさ!」

そういって笑うと、マスターは訝しげな顔をしながら、「そうか。なら止められねぇな」と苦虫をつぶした顔で微笑んだ。