朝靄の立ち込める中庭に、そっと寄り添う二つの影があった。



鳥の啼く声すら、聞こえない静寂に包まれながら、また二人も無言だった。



滑らかなダークブラウンの髪を梳いてやりながら、男は腕の中の女を見つめた。



寂しそうに震える目には、涙が溜まっている。



眉を微かに震わせながら、彼は彼女を見つめ続ける。



どれくらいそうしていたか、彼女は鈴のなるような声で、ゆっくりと言った。



「愛しています。」



それは、初めて聞く言葉だった。



彼は濡れた眼を、大きく見開く。



彼女は驚く彼に微笑んで、そっと頬に手をあてた。



優しく頬を撫でながら、もう一度小さな声で、しかしはっきりと言った。



「私は、貴方を愛しています、ジーク。」



彼__ジークは胸が詰まって言葉にならなかった。



浅い呼吸を繰り返すジークに、彼女はさらに言った。



「誰がなんと言おうと、私が貴方を愛することは変わらない、変えさせない。
心の底から貴方が愛しい。
だから、それだからこそ、貴方に幸せになってもらいたいの。」


「ミア…。」


「最初からこうなることはわかっていたはずでしょう?
人生で一番幸せな時間を作ることができたのだから、もうこれ以上は望んではいけないのよ。
これからはお互い歩むべき道を、進みましょう。」



ぐっと息を飲んでから、ジークは微笑んだ。



「あぁ。」



彼女の手が、彼から離れた。