たしかに勝てる要因などない。
俺は殴り合いの喧嘩をしたこともなければ、何か武器を持っているわけでもない。
いたって普通(いやヘタレすぎる部類に入るかもしれない)の一般人なのだ。
技も体力もあのSP(悪)の方が数百倍は上なことくらい理解している。
けれどなんとかしたい。
神坂レイを助けたい。
ただそれだけの想いに突き動かされているようなものだった。
もしも俺が金持ちの人間で、もうちょっと大人で、頭が良かったら、もっといい方法があったのかもしれない。
どこか遠くへ逃げることだってできるし、自分で武器も調達できたかもしれない。
軍だって動かせる人間だったら、あっという間に神坂レイを救い出せたのかもしれない。
だけどそんなの空想だ。
現に俺は、彼女を抱えて逃げ回ることしかできないのだ。
けれど逆に言えば、それができる人間なんだって話。
俺は金持ちでもないし、大人でもないし、頭もよくないし、強くもない上に武器もないし、軍なんて動かせるわけがない。
専業主婦の母さんと会社勤めの父さんの家に生まれた平凡なヤツで、普通の県立高校に通ってて、勉強が得意ではなくて、かといって運動ができるわけでもなくて、休み時間は友達とバカ話してて、ゲームが好きで、そして隣に引っ越してきた美少女がとても気になるような。
そんな普通の、本当にどこにでもいそうな、普通の男子高校生なんだよ、俺は。
だから、できたのかもしれない。
だから、神坂レイを本気で助けようと思えたのかもしれない。
だから今、こうして彼女を抱えて一緒に逃げることも、戦うことも、たぶん俺が俺じゃないとできないことなんだと思う。
死んでしまったら神坂レイに会えないから死にたくはないけど、でも彼女が今いる場所まで行けるなら、俺はそこまで全力で行く。
治らない傷が出来たら、お揃いだって笑えばいい。
そしたらきっと、彼女も笑ってくれるんだ。