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夕方になって家に帰って行った2人を見送って、部屋に戻った俺はその場にしゃがみこんで頭を抱えた。
さっき渡辺先輩が言っていたことが気になる。
気になるっていうか、そういえばそうだよなっていう。
神坂レイは確かに言ってたんだ。
『住む場所も転々としてる』って、そう言ってた。
そう考えると、ひやりとする。
だって偶然じゃないか。
神坂レイが隣に引っ越してきたのも、入学した高校が俺と同じだったのも、クラスが同じになったのも、席が隣になったのも、全部。
確率的にはものすごい低いわけで。
彼女が違う高校に行ってて、そしたら住む場所もきっとここじゃなかったはずで。
そしたら、そしたらさ。
俺は一生、神坂レイという女の子を知らなかったことになるんだ。
サァッと血の気が引くような感覚。
急激に寒くなった。
同時に芽生える恐怖に、玄関で座り込んでしまった。
怖いと思った。素直にそう思った。
神坂レイが居ない世界なんて、考えられない。
でも実際、2月の時の俺は神坂レイを知らなかった。
不思議だなと思った。でもやっぱり怖かった。
神坂レイが居る世界が今の俺にとっての世界で、彼女とノートの隅で会話をするのが日常で、隣人なのが当たり前で、時々向けられる敵意に怯んだりして、でもホントは優しくて笑うと可愛いんだっていうのが、神坂レイがそうして存在してるんだっていうのが、今の、俺の世界で……。


