隣の彼女が厨二病だったんだけど。





「そしたら、両親が私に、絵を描けって命令するようになった。最初の内はそれに答えてた。私がまだ、絵を描くことが好きだったから」

「……うん」

「でもね、私に絵を描けと命令する両親が次第に恐くなった。私の絵は、高額で売りさばかれるようになってた。両親はそのお金を、借金のために使ってた」

「…………」

「必死だった。私は必死で絵を描いた。もう死に物狂いだった。生活は苦しくて、家に閉じこもって絵ばかり描かされた」

「…………」

「そんな環境で、いい絵が描けるはずもなくて。私の絵は売れなくなっていった。当然の結果だと思う。それでも両親は、借金を返すためにどんな手を使ってでも、私に絵を描かせようとした。それ以外に方法を思いつかなかったんだと思う」

「…………」

「中学に上がる頃には、私はもう絵を描くことしか知らない人間になってた。それがね、もう、とても怖かった」


神坂レイは、静かに笑った。


「売られたの、私。借金のために売られた。お金持ちの家だった。その家の人はお金にしか興味がなくて、私が絵を描いて売れる人間だから買われた」

「…………っ」

「そしてまた、強制的に絵を描かされる生活。もううんざりだった。死にたくもなった。絵を描く楽しさも忘れてしまった」

「…………っ」

「だから逃げだした。こっそり溜めてたお金を持って逃げ出した。でもどこへでも追ってくるの。その家のSPたちがね、追ってくる。住む場所も転々としてた。今がこのアパート」

「…………っ」

「けれどもう、ダメかもしれない。今まで本気じゃなかったんだ、アイツ等。だからここまで生きて来れたんだ私は……」

「…………っ」

「でももう、ムリなんだってわかった。今日、わかったの。捕まえるためだったら、アイツ等は私の足も切り落とすつもりなんだ。右手と目と、頭が無事ならそれでいいんだ……絵が描けるなら、私の足も、口も、耳もなくなっていいんだって思ってるの……」

「…………っ」

「絵以外のことが知りたくて勉強した。アイツ等に勝つために強くなった。だけど結局……私は……」



――絵を描くことでしか、必要とされないのかもしれない。