「……あの、さ」
たぶんもう怒らせてしまうこともないんだろうけど、少し問いかけ辛いからどもってしまう。
神坂レイが顔を上げる。
なんでも聞いて、という顔だった。
「……やっぱり、神坂さんは、何かと戦ってるんだ…?」
「……君だけだったね、そうして私のことを信じてくれたのは」
入学式の時の話だろうと思う。
あの時の俺はまだ、完全に信じていたわけではなかったかもしれない。
けれど彼女が怪我をしていたから、すべてが嘘だとは思えなかったんだ、と、思う。
神坂レイは瞼を伏せる。
「その話もする。けれど、もう少し遡らなくちゃ説明ができない。」
「説明……」
「そう、まずは、昨日、君が私に投げかけた質問に答えてからの方がいい。」
昨日、俺が神坂レイに投げかけた質問。
『絵描き、なんでやめたの?』
「――答えなんて簡単。嫌になったから」
嘘だ。
すぐにわかった。
「私は、お金持ちの家に生まれた。絵も好きなように描かせてもらった。それが、どういうわけか有名になってしまって」
「……うん」
「最初の内は好きなように描かせてもらってた。でも、時が経つにつれて、私の家は力を失って、お金がなくなっていって。最後は借金だらけになってしまったの」
それがたぶん、神坂レイが10歳を過ぎたあとの話だ。


