不意に、神坂レイの手が伸びてくる。
さっきナイフを握っていた方の手だ。
その手が俺の頬に触れた。
優しい手だった。
「……君、泣いてるよ」
神坂レイが力なく笑った。
視界がセルフエコノミーなことくらいとっくの昔に気付いてた。
「……うん、知ってる」白状した。「神坂さんが死んだかと思って怖かったんです…」
死んだって確定されてもないのに、なんで泣いてしまったのかはわからない。
別に俺は泣き虫とかじゃないし、だからって当てはまる理由が見つからないのだ。
あんなに怒鳴ったのも初めてだったし、っていうか誰かに対して怒ったのはもしかしたら初めてだったかもしれない。
それでも白状した俺に、くすくすと、彼女は笑った。
ほっぺたに血がついてるのに、可愛い笑顔だった。
「……負けた。君には勝てそうにないみたい、高橋翔平くん。」
レベル60で必ず1回はラスボスに瞬殺されることに定評のある俺が、神坂レイと言う神レベルのボスに勝った瞬間だった。
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神坂レイは足を怪我していた。
「出血に対して傷はそんなに深くないから大丈夫。」と彼女は言っていたが、手当てしてる俺の方が大丈夫じゃなかった。
そもそも血とか怪我とかそんなに得意な方じゃないのでもう吐くかと思った。


