名前を呼ぼうと息を吸う。
けれどそれは、しゃがみこんだ目の前に走った鋭い光で呼吸を止めるためになってしまった。
「……――来るな」
目の前に、俺を突き刺そうとせんばかりのナイフが光っていた。
筆ではなく、ナイフ。
目と鼻の先。
少しでも身を乗り出したら、刺さる距離に。
息が止まった。
「……み、さか…?」
絞り出した声は情けないほどに震えていて。
けれど神坂レイは、この状況でもしっかりと聞き届けてくれたらしい。
ハッとしたように顔を上げ、こちらを見上げた。
「……君だったのか…」
そうつぶやいた途端、神坂レイの手から力が抜けた。
同時に落ちるナイフに危うく刺さりそうになって必死で避けた。
肘をつき、体を起こす神坂レイは、何度も息を吐きながら口を開く。
「…ごめんなさい…少し過敏になっていた……」
「……いや、いい、けど……」
「…君の部屋の前まで汚してしまって…申し訳ない……もう少し休んだら、掃除をするから……ごめんなさい…」
ゆっくりと立ち上がりながら、神坂レイは言う。
どう見てもボロボロなのに、自分のことより俺のことを気にするのか。


