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スローモーションみたいだ。
いや、むしろ時間が止まっているような。
心臓が一瞬止まったのはたしかだった。
アパートまで戻った俺は、階段の前で立ちすくんでいた。
血だ。
階段に血が落ちている。
スッと、体中の体温が頭の先から足元へと消えて行く。
なんだ、この血は。
それを考えるまでもなかった。
階段を駆け上る。
静かとはお世辞にも言えない足音が響く。
最後の一段を飛び越えて上りきると、数メートル先に人影が見えた。
立っている人影ではない。
倒れ込んでいる人影だった。
綺麗な黒髪が、血だまりに濡れていた。
「……――ッ!!」
声も出なかった。
持っていた鞄も何もかも投げ捨てて駆け寄っていた。


