その才能は3歳から開花していた。

『神坂』というあまり見ないその苗字は、当時有名な財閥の、いわゆる金持ちの家系だったらしい。

神坂レイの親は、すぐに彼女の才能を発見し、本格的なアトリエを作った。

大きなキャンバスにパレット、数えきれないほどの絵具と筆、画集や資料。どれもこれも、神坂レイが3歳の時にはすでに全部が揃えられていた。


彼女は絵を描くことが好きだった。

それは10歳の本人が言っていることだ。間違いはないのだろう。

だから神坂レイは絵を描いた。好きなだけ描いていた。

好きな絵を、好きなときに、好きなだけ。


それが崩れ始めたのは、彼女が8歳の時。

時代の流れと共に、徐々に力を失っていく財閥に不安を募らせていく両親が原因だった。

神坂レイの絵は高額で売れた。

彼女の両親は絵をもっと描くようにと、命じるようになった。

10歳の彼女は、それが少しプレッシャーだと語っていた。でも好きな絵をたくさん描けてうれしいとも言っていた。

その頃はまだ、きっと神坂レイは、絵が好きだった。

まだ、大好きだったはずだ。




ネットで調べても、出てくる情報はそれくらい。

神坂レイがすでに過去の人になっていることは明白だった。

いつから、いつから彼女は絵が嫌いになったのか。

何が彼女をそこまで追い詰めたのか。

知りたかった。

どうしても知りたかった。

なんでだ、と聞かれると、よくわからないけど。