なんだか答える気になれなくて、「別に…何も」とだけ言っておいた。


地雷だった。

神坂レイにとって、絵の話は絶対にしてはいけない話題だった。

彼女にとって、絵と言うのはそういう存在になっていたのだ。


あーあ、と深いため息が出た。

せっかく笑ってくれたんだけどなあ、と思った。


机の中から、渡辺先輩が貸してくれた雑誌を取り出す。

付箋のついたページを開くと、そこには見覚えのある女の子が映っていた。


神坂レイだ。


今よりも幼い顔立ちの、けれどやっぱり整った顔をしている神坂レイ。

今と違うのは、雑誌に載っている表情が、今よりも数倍、数十倍は明るいことだろうか。


『10歳の天才画家、神坂レイ』


見出しには、そんな文字が並んでいた。




今から約6年前、神坂レイは、天才と呼ばれた絵描きだったのだ。