大袈裟なまでに仰け反って驚愕する渡辺先輩。
かと思えばいきなり俺に掴みかかってくるわけで。
「嘘だ嘘だああ!絶対なんか反応してくれたでしょー!」
「いいいいやそそそんなこここといいい言われましてももも」
「っていうかキミもキミだよ少年!何か聞いてくれてもいいじゃん!“美術部入るの?”くらい聞きなよおバカああ!!」
「ちょちょマジせんぱちょちょちょ首取れるマジ取れるガチで死ぬ首ががががg」
リアルに死にかけてたら、ようやく気が付いてくれたのか渡辺先輩の手が離れる。
今年に入って2回目の三途だった。
3度目の正直で今度はマジで三途を渡ってしまいそうで怖い。
「まったくー…気の利かない少年には罰として今度の掛け算本に出てもらうんだからねーあ、言っとくけどキミは右だよ?歪みなく右だからね?」
「渡辺先輩がこの間から言ってるその意味がまったくわからないんですけれども」
「えへ、冗談冗談!」
まったく答えになっていない。
「はあ~……そっかあ、じゃあやっぱり美術部入ってくれないのかなあ」
渡辺先輩は喜怒哀楽が激しい人なのか、さっきからコロコロと表情が変わる。
現在はモロ落ち込んだ表情を浮かべ、窓枠に腕を置いて頬杖をつき、しまいにはため息まで漏らす始末。
っていうか1年の教室にわざわざ足を運んでくれるとは、暇なんだろうかこの人。
「あのー…なんでそんなに神坂レイに美術部入って欲しいんですか?」
先輩のあまりの落ち込みっぷりに少しばかり気になった俺は、恐る恐るという風に尋ねてみる。
すると渡辺先輩はバッと顔を上げ、目を丸くしてこちらを凝視した。


