「……これ」
探り当てた“何か”を、神坂レイはこちらに向かって差し出してきた。
平べったい長方形のひんやりするアレである。
「……冷却シート?」
なんで持ってるんだろうと思わないこともない。
しかも2枚。
「氷は邪魔だろうと思って。学校に居る間だけはこれを貼っておけばいい」
「貼っておけばいいって……もしかしてくれるの?」
「そう。あげる。なに、いらない?」
「いぃや!いる!いります!ありがとうございます!!」
言うが早いか引っ込めようとした神坂レイの手ごと掴む勢いで冷却シートを頂く。
若干神坂レイが驚いたような表情をしたような気がしたが、すぐにいつもの凛とした表情に戻ったので気のせいかもしれない。
神坂レイからもらった冷却シート……うわもったいねぇ使えねぇ…!家宝にしたい…!
とは思うものの、目の前にくれた人が居るのに使わないまま鞄に入れるのは心苦しかったので、涙をのみ込み冷却シートをありがたく使わせていただく。だが残り1枚は家宝だ。決まりだ。
神坂レイはこちらを見ない。見ないが、
「……これで借りは、返したから」
たしかにそう言った。
冷却シートでひんやり心地いいデコを押さえて、「なんの借り?」と尋ねてみたが、神坂レイはもう何も答えてくれなかった。
お茶を飲み干すと、そのままどこかに行ってしまった神坂レイ。
彼女と入れ替わるようにして他のクラスに行っていた坂本が戻ってきて、俺のデコを見るや否や「なんだそれは」と聞いてくる。
俺はすかさず「神坂レイから頂いた家宝だ。」と答えた。


