隣の彼女が厨二病だったんだけど。





土下座張りの謝罪をしたら、「静かに聞くように」と言われただけで済んだ。

まだ入学仕立てだからかわからないが、次はないような気がするから怖いよね。

密かに深呼吸をしていると、視界の端にスッと紙が現れた。


『ごめんなさい』


神坂レイだ。


数日前から学校に復帰した神坂レイは、案の定と言うべきか、俺が隣の席だと知った途端に『私に関わるなとあれほど……』というような鋭い視線でこちらを睨んできた。

しかし、隣になったからには席替えがあるまでこの状態だということを彼女も理解しているためか、しぶしぶと言った様子で俺の隣の席に腰を下ろした。

神坂レイからの俺に対する“こっちくんな”オーラが出会った時よりも増している気がするのは気のせいじゃないはず。


そのオーラをどうにかしたかったので、それなら関わらない方がいいかなとも思ったけど、やっぱり神坂レイが隣とかチャンスとしか思えなかったので強行突破である。

関わる方向でなんとか神坂レイのこの冷たいオーラを和らげたいという俺の気持ちが伝わったわけではないだろうが、しかし神坂レイは紙の上でたびたびこうやって会話をしてくれるようになった。


神坂レイは左利きだった。

それなのに俺よりも数十倍綺麗な字を書く。もはや俺と比べるのもおこがましいレベルである。


『いやぜんぜんだいじょぶです』


どんなに丁寧に書こうと試みてもミミズが這ったような字しか書けない俺はその上漢字が苦手なので大変読みにくい文になる始末。

たまに「なんだか行書体みたいだね!」とか言われるけどこれを翻訳すると「字汚ぇなテメェこれじゃ読めねぇだろウスラハゲ」だということは小学生の頃にすでに学習済みだ。

そんな字でも神坂レイは読んでくれるわけで。


『大丈夫くらい漢字で書いたらどうなの?』


……うん、でも、読んでくれてるんでそれでいいです。