なるほど、昨日隣がガタゴト騒がしかったのはこのせいだったのか。

早朝のゴミ出しに行く途中、ふと目についた見慣れない苗字の書かれた札に、俺はひとりで納得する。

どうやら新しい住人がこのクソボロいアパートの203号室に引っ越してきたらしかった。


『神坂』


そう書かれた表札をじーっと見つめる。

……何て読むんだろうか。

かみさか……かんざか……?

わからん。わからんがしかしカッコいい苗字でうらやましい限りである。

“神”とかついている時点ですでにカッコいい。

俺なんか高橋だぞ高橋。日本で第3位にランクインする程度にはよく見る苗字だぞ。

いいよなあ珍しい苗字って。

とか愚痴ってたらこの間苗字が『佐藤』のヤツにぶん殴られたわ。


『日本で第3位とかまだいい方じゃねぇか俺なんか佐藤だぞ佐藤!!“佐藤さーん”とか呼んでみろお前クラスの40人中10人は振り向く勢いで多い苗字だぞ佐藤とかマジ爆発すればいいのに!!』


とおっしゃられていたので俺が『いや佐藤爆発しろっつったらお前も爆発するんじゃね?』って言ったらまた殴られた。解せぬ。

そう言えば幼稚園からの腐れ縁で何故か高校も同じになって『なんで高校まで同じなんだよいい加減飽きてきたわ』ってくらい腐れ縁すぎる悪友も坂本というこれまたよく見る苗字である。

それでもまあ5位以内には入っていないので良い方か。


とにもかくにもこの隣人さんの苗字はカッコいい。

どんな人なんだろうなあ女の子がいいなあ超美少女とかだったらいよいよ俺も三次元始まったなってことで現実を凝視するようになるんだけどなあ……


……――トンッ。


唐突に、背中を細い何かで突かれた。