……――キィン。
耳鳴りのような音がした。
聞いたことのある声だ。
凛として、どこか冷たいような声。
この声は……。
人々が避ける。
少しずつ出来て行った道を歩き、姿を現した“彼女”は。
「……――新入生代表、神坂レイです」
まさしく神坂レイ、本人だった。
綺麗な黒髪はそのままに、けれど肌や制服はところどころ煤けているように見える。
戸惑いや迷いのない瞳は、まっすぐに体育館に居る人々を見つめていた。
「式を台無しにしてしまって、申し訳ありません。すべて私に責任があります。どんな処分も受け入れる義務があります」
神坂レイが頭を下げる。
「しかし今は、やらなければならないことがある」
顔を上げて、全体を見渡す。
「外は危険です。式を続けてください。終了する頃には、なんとかしてみせます」
そこまで言い切ると、神坂レイはもう一度頭を下げて、踵を返す。
綺麗な黒髪は、春の光で見えなくなった。


