一夜だけ、その言葉に惹かれたんじゃない?


 目の前でビールを一気に飲み干す彼女はそう言った。名言。実にその通りかもしれない。


 何故か心に黒い霧のようなものが覆っていたような気分だったのだ。それが、あの言葉を聞いて晴れていくようにすっきりした。


「あんた……九回裏に逆転ホームラン打ったよ。お見事。」


「でしょ」


 酒のせいか、フフンと彼女は機嫌良く意味もわかっていないのに誇らしげだ。

 “ねぇ、今日一晩だけ俺の彼女でいて”


 彼女が酒を煽っている間、その台詞が頭の中でぐるぐる回った。あのシニカルな微笑みと共に。