「二人で話して。僕は夏実ちゃんのところに座るから」


悟くんは立ち上がると前の方に歩いて行った。


「大人げなかった」


圭吾さんはうつむいたまま言った。


「どうすれば圭吾さんは安心するの?」


「完全には無理だよ。君の雷恐怖症と一緒だ。自分の恐怖心を理解して、受け入れるしかない」


ただのヤキモチじゃないの?


「怖いの?」


圭吾さんがうなずく。


優月さんはそんなにこの人を傷つけたの?


「わたしが側にいたら、いくらかマシ?」


「君が側にいてくれるなら何もいらない。それなのに僕には不安要素ばかりある」


圭吾さんは顔を上げてわたしを見た。


「僕はこうやって旅行はできるが、別の土地に住む事は許されない。もし君が別の土地の大学に行きたいって言ったら? もっと都会に住みたいって言ったら? お父さんみたいに海外で仕事をしたいって言ったら? 僕はどうすればいい?」


「行くなって言えば?」


「僕には言えない」


「いつもみたいにズルすればいいじゃない」


「そうだね。でも、きっと最後には諦めて君を行かせるだろう」


涙がこぼれそうになった。


わたしは咳ばらいすると前を向き、圭吾さんの腕に自分の腕をからめた。