しばらくして圭吾さんが手を離した。


「ねえ、どうなってるの?」


わたしが言うと、悟くんは手にした額を眺めて顔をしかめた。

絵はわたしからは見えない。


「こいつは見ない方がいいな」

悟くんが言う。

「胸が悪くなるよ。どうやら僕には画才がないらしい」


「どれ」

と、圭吾さんが回り込んで絵を見る。

「ひどいな。悪魔崇拝の遺物なんてどこに納めればいいんだろう。キリスト教の教会か?」


「寺でいいんじゃない? お祓いして焚き上げしてくれるようなさ。封じ込めたわけだし、この絵が消えればそれでいいんだろ?」


「それは、俺に処分させてくれないか?」


思いがけない声に、わたし達は一斉に振り向いた。


床の上に座り込んでいた村瀬さんだった。


「久慈律は俺の先祖なんだ」


ええっ? そうなの?


「男爵夫人が乗り移っていたその女性は?」

圭吾さんがきいた。


「俺の姉だ。律は八年前には俺の妻に乗り移っていた。すまん志鶴ちゃん。俺は何が起きているのか薄々分かっていたが、どうすることも出来なかった」

村瀬さんは頭を下げた。

「三田に君を連れて外国に移り住むように警告するのが精一杯だった」