先輩が隣にいる講義は、いつも早く終わる気がする。


「先輩、授業終わっちゃったよ?」


「ん、」



遠慮がちに声をかけると、すぐに起きてくれる。


「侑、ノート取った?」

「うん、ほら」


びっしりと書き込んだノートを見せると、ふっとやさしく笑って頭を撫でてくれる。


「えらいえらい」


いつものことなのに、なんだか照れくさくなってしまう。


頭を撫でてくれる大きな手が心地いい




「ごほうび」



そう言って渡してくれるのは、今日はチョコレート。
いつものように、いちご味。


「ありがとう」


いちごが一番好きって言って以来、彼のくれる“ごほうび”はすべていちご味になった。



好きなものを覚えてくれているのが嬉しくて、思わず笑顔になってしまう。



「ん、」


それだけ言って、歩き出す。


彼の必要としているのは、私じゃなくて、人より少しだけ多めに書き込んである私のノート。



そんなの、わかってる。

それでも、彼が隣にいてくれるならかまわなかった。





背の高い、大きな背中




次の授業は別々だから仕方ない。


そうわかっているのに、隣にいる先輩の寝顔じゃなくて、歩いていってしまう背中を見ると、胸がきゅっとしめつけられる。