先輩も、それ以上何も言わない。
無言の攻防は、思ったより早く終結を迎えた。
「――――着いたよ」
車が停まったのは、高層マンションの駐車場。
―――高そうなマンション‥‥
車から降りると、先輩は慣れた様子でキラキラしたエントランスに足を踏み入れる。
思わずまわりをきょろきょろしてしまっていた私は、慌てて先輩のあとを追いかけた。
「先輩っ!?ここ、入っちゃっていいの?」
警報機とか鳴り出したらどうしよう‥‥
高級感溢れるエントランスは、いるだけで不安になってくる。
「――――ここ、俺んち」
「ええっ!?」
慌てる私をおもしろそうに見ながら、平然と彼は言った。
「いや、驚きすぎだろ」
驚くよ‥‥‥
いや、待って、先輩って確か‥‥
「前、一人暮らしって‥‥」
「ん?だから、ここに住んでるんだって」
う、嘘‥‥‥
こんなすごいとこに住んでるだけでもびっくりなのに、ここに一人で住んでるって‥‥
学生にこんなすごいマンションを与える親って、どんな親なんだろう‥‥
何やら眩暈がしてきた。
「行くぞ」
ぐらぐらする頭を抑えながら、エレベーターに乗り込む。
先輩が押したボタンは最上階。
嘘でしょ‥‥?
目の前の先輩が、だんだん違う人に見えてくる。
未だ頭が追いつかない私を尻目に、エレベーターは到着を知らせた。
降りてまわりを見渡すが、見えるのは目の前のドア一つ。
つまり、この階にはこの部屋しか存在しない。
私、もうきっと何が起きても驚かない。
なにやら脳内ではじける音がして、私はそれだけ心の中で呟き、先輩に聞こえないように小さくため息をついた。

