お、お姫様抱っこっっ‥‥‥!?
ぜったいぜっったい重かったよね‥‥
もういやっ
さっきとは別の涙がじわじわと浮かんでくるが、もう遅い。
「まだ顔伏せとけ」
先輩の言葉に、慌てて顔を伏せる。
エンジンをかけて車が動き出す。
大学からあっという間に遠ざかり、人だかりも見えなくなった。
先輩は何も言わない。私もかける言葉がみつからず、静かなエンジン音だけが車内を満たしていた。
「――――ノート」
「え?」
「今日の講義のノート、持ってる?」
沈黙を破ったのは、先輩の声。
「‥‥‥持ってるよ?」
今日の分だけじゃない。
先輩と一緒に受けていた講義のノートは、全部持ってる。
――――いつでも渡せるように
会えなくなってからは、ずっと持ち歩いていた。
「見せて」
「ここで?」
「‥‥んなわけないだろ。運転中だ」
それはそうだけど。
じゃあ、どこで?
先輩の考えていることがまるでわからなくて、少し口を尖らせた。
「何拗ねてんだよ」
前を向いているから見えないと思ってたのに、横目でしっかり見ていたらしい。
「‥‥‥何でも、ない」
見られていたのが恥ずかしくて、ふいっと顔をそむける。
「‥‥もうすぐ着くから」
すねてる、を無意識に肯定してしまった私に苦笑しながら、やさしく言った。
―――どこへ?
疑問が浮かんだが、先輩に尋ねるのもなんだか悔しくて口をつぐむ。

