どのくらい、経ったんだろう
「‥‥侑‥?」
「‥ん、」
やさしく私を呼ぶ声に、小さく答える。
涙はほとんど止まって、泣き続けたことによる倦怠感が体にのしかかる。
頬に残る涙の跡を、彼が親指でやさしくぬぐってくれる。
高ぶっていた感情が落ちついてくると、今の自分の状態に頬がじわりと熱くなる。
先輩に、抱きしめられてるっ‥‥
もちろん、他意などなく、いきなり泣き出した自分を慰めてくれようとした結果なのだろうが‥‥‥
そもそも、いきなり泣き出してしまった自分が恥ずかしくなってくる。
おまけに、しばらく泣き続けたために先輩のスーツは涙でかなり濡れて色を変えてしまっているし、自分の顔も腫れてひどい事になっているだろう。
考えれば考えるほど、恥ずかしくてたまらない。
に、逃げ出したい‥‥
そう思う一方で、先輩の、心地よい腕のぬくもりから離れたくないと思う自分もいた。
「‥‥‥行くか」
「え?」
どこへ?
唐突な先輩の言葉に思考が遮られる。
「いや、ここ、ギャラリーすごいし」
‥‥‥‥ギャラリー‥‥?
いやな予感に背中がひやりとする。
ゆっくりゆっくり、ぎしぎしときしむ首を横に向けると、遠目にこちらをちらちらと窺う人や、堂々と成り行きを窺っているたくさんの人々が道をふさぎそうになるほどだ。
は、恥ずかしいっっ‥‥
それらが見えてしまった瞬間、首を戻して顔を先輩の胸にうずめる。
「―――顔、そのまま埋めてろ」
先輩は耳元でそう囁くと、私の肩と頭を右手で自分の胸に押し付ける。
次の瞬間、ふわりと体が浮いた。
―――え!?
右手で私の肩と頭を胸に押し付けたまま、左手一本で私の体を軽々と抱えあげる。
「どけ」
私が呆然としている間にも、先輩の低い一言で道が開ける。
車に着くと、助手席のドアを開いて私をそっとシートに降ろしてくれた。

