弥一は、庭師をしている。最近では仕事が増えてきていて、風向きが良い。
年は二十五になった。八重とは七つ離れている。全く温厚で敵を作らない男だが、女性関係は程々にあったらしい。
結婚の話が進められる中、八重と弥一とは四月を迎えていた。
八重は相変わらず団子屋「松野屋」で看板娘をしている。
「重さん、三色団子二つ」
「あいよ」
八重は主人の重勝に、もちろん結婚の話をした。重勝は八重を自分の娘のように可愛がっているので、とても喜んだ。
結婚してからも仕事を続けたいという旨を話すと、重勝は快く頷いた。
「八重ちゃん、休憩に行っておいで」
「はい」
昼時を過ぎ、八重はようやく昼食を取る為に休憩に入る。
弥一の庭師の仕事が無ければ、二人で昼食を取りに蕎麦屋へ行った。
この日も二人は、行きつけの蕎麦屋で落ち合うことにしていた。
蕎麦屋に到着し、八重が店内に入ると既に弥一は座席に着いている。

