「おやっさん。八重ちゃんどうしていなくなっちまったんだろうなぁ」
松野屋は今日も、混み合っている。
そろそろ端午の節句が近付いているので、松野重勝は柏餅を作っていた。
八重が松野屋に来なくなり、疾うに一年が経とうとしていた。
常連客がたまに看板娘だった頃の八重の話を持ち出す。
「さあね。八重ちゃんはきっと、結婚して幸せにやってんのさ」
「だけどよ、突然パタッと会わなくなっただろう。何かあったんじゃねえかな」
常連客は団子を頬張る。
重勝は依然として冷静なまま黙っていた。
しかし重勝も、結婚してからも働きたいと言った八重が松野屋に顔を出すのを楽しみにしていた。
八重と連絡が取れなくなり、残念で仕方がないのは確かだ。
「八重ちゃんは、幸せにやってるはずだ。連絡がないことは気掛かりだが、俺は俺の仕事をしなくちゃならねえ」
松野屋は明日、休業日である。

