明治屋クラムジー

 

もし弥一が八重を前園家から連れ出したとしたら、困るのはミツだ。
八重が前園を裏切ることになれば、ミツは前園家で生活できなくなるし、最悪の場合一生顔を上げて歩けなくなるだろう。
 

八重がいなくなり弥一まで同時期に姿を消せば、きっと河津の家も何らかの被害を被ることになる。
 

弥一の心に葛藤が生まれた。
八重の気持ちだけを大切にすることはできない。叶わぬ恋に周りを犠牲にするほど、弥一ももう子どもではないのだ。
 

それから弥一は何も反応することはなく、毎日前園家に通った。
 

 
「弥一さん、」
 

 
ある日、痺れを切らしたのか八重が弥一に話しかけた。弥一の心臓は急激に鼓動を速める。
振り向けば、半年以上会っていない八重の顔があった。
 

師走となって間もなくのことだった。