文を書き終えた八重は、部屋を出て草鞋を履いた。それから抜き足差し足忍び足で庭園にいる弥一に近付いた。
「……」
彼にしてみれば仕事なので、邪魔をしたくなかった八重は、文を折り畳むと弥一の仕事道具の中に紛れ込ませた。
そして、早々にそこを立ち去る。
八重が立ち去る際の地を蹴る音に気付いた弥一は、ふと後ろを振り返った。
髪をなびかせる八重の後ろ姿が、見えた。
一目、顔が見たかったのに、君は逃げるように行ってしまった。
弥一は追い掛けるように八重の向かった方向に歩いた。それから、足元にある仕事道具の上に被さった紙切れに気付く。
休憩も兼ねて庭木のそばに座り込んだ弥一は、その紙切れを早速開いてまじまじとその文面を辿った。
弥一は驚いた。
内容は、いつも自宅に届く文のようなものとそれから、駆落ちをしたいのだという八重の本心だった。
八重は、弥一と一緒にいたいという旨を文にしこたま綴った。

