明治屋クラムジー

 

婚儀の話が説明され、八重とミツとは十日後より前園家に暮らすことになった。
 

利彦の、八重とできる限りの時間を共にしたいという意志から、強制ではないが婚儀前の同居の話が持ち出された。
拒否する理由もないし生活が楽になると思い、八重は了解を頷いた。
 

 
「八重」
 

「何?」
 

「……ごめんね」
 

 
母親の言葉を、八重は嫌というほどに理解していた。
 

前園家に一度入ってしまえば、弥一とは会おうと思えど容易には会えない。
八重はもう、決意したのだ。
 

 
「あと十日、八重の好きなように過ごしてね」
 

「……」
 

 
近頃、ミツとの会話はめっきり減った。
怒っているわけではない。が、八重はミツと話す気になれずにいた。
 

前園家に入る前日、一日だけ、弥一さんに会いにゆこう。
八重はそれだけを、心の支えにしていた。