明治屋クラムジー

 

皮肉なことに、弥一と八重との結婚を喜び合ったあの日、偶然前園財閥の息子が西洋の着物を着た八重に惚れた。
弥一は後悔にも似た気持ちを、悲しみの中に持ち合わせていた。
 

あの日、幸せだったあの日、よかれと思い八重を西洋の着物で着飾った。
それが皮肉にも、こういう結果である。
 

八重と弥一との結婚話は前園財閥からの縁談により、完全にないものとなった。
 

それから早一月が過ぎた。
 

 
「八重、前園さんが明日屋敷に来るようにと」
 

「……はい」
 

「粗相のないよう、恥ずかしくないよう綺麗にしていかなくてはね」
 

 
前園財閥に嫁ぐことが決まった八重は、招待された前園家の屋敷に向かうことを、一月経ってようやく決意した。
 

弥一の姿は、あの日河津家から飛び出して以来見ていない。
 

前園家の家人になってしまえばきっと、このまま死ぬまで会えないのだろう。
何よりも、合わせる顔がないと八重は思った。