明治屋クラムジー

 

八重は一人で平屋へ戻ってきていた。
何かを食べる気も起きず、ただ座敷の中心に座り込んでいる。
 

一方、河津家では四人が沈黙したまま食卓を囲んでいた。
 

 
「急な話でごめんなさい。でも、八重が幸せになるためなのです。弥一君、ごめんなさい」
 

「……」
 

 
弥一はただ呆然と、人間の汚い部分に悲しさを覚えていた。
金があれば、愛も買えるのか。
 

弥一は思う。
 

偽りの愛ならば、与えようと思えば与えられるというのに、恋の気持ちは偽って作りだそうとしても、うまく作り上げることは不可能なのだ。
 

そういう意味では、愛することよりも恋することの方が幸せなことのように思えてきた。
 

 
「弥一」
 

 
義明の呼ぶ声は、確かに弥一に届いてはいた。
ただ反応をしようにも、体は異常に震えており、止まらない動悸に畏怖の念すら抱いたほどだ。
 

そうして弥一はぼんやりと、八重は違う男の元へ嫁いでしまうのか、と思った。