義明の眉間に皺が寄る。それに対し、ミツは意志の強い眼差しで前を見据える。
「前園財閥から、八重に縁談の話が来ました」
断る理由はないのですよと、ミツの言葉に弥一は呆然とした。
前園財閥の名前は、それ程浸透している。
「八重は、前園家へ嫁いで幸せになります」
「前園家から……」
更に驚愕した義明が呟くように言った。
世間体も考えれば断るわけにはいかないことを、誰もが知っている。
「八重、」
黙ったまま俯いていた弥一が、八重の方に視線を向けた。その瞬間、八重は立ち上がって部屋を飛び出していった。
台所へいた香絵が走り去る八重に驚いて、座敷に顔を出した。
「ちょっと、八重ちゃんが出て行きましたよ、どうしたんです!」
「いや、まあ、後で話す」
上手く言葉にできない義明が、慌てる香絵を宥めた。ミツも弥一も黙って座っていた。

