明治屋クラムジー

 

「お邪魔します」
 

 
戸が開いた音がして、ミツの声がした。八重の肩がビクリと跳ねる。
それを弥一は見逃さない。
 

 
「すぐ支度をしますからね。ミツさんも早く座って下さいな」
 

 
香絵の声だけが明るく響く。
至って変わりのない義明とミツと、何かに怯えるようにしている八重とのあまりの隔たりに、弥一は眉をしかめていた。
 

 
「兄さん、お話があります」
 

「何だい、改まって」
 

 
淡々と切り出すミツに、八重は気が気でなかった。緊張で動悸がする。
弥一はじっと聞く姿勢になっていた。
 

 
「弥一君と、八重の結婚を取り消したいと思います」
 

「……は、」
 

 
八重以外の皆が驚愕した。
弥一においては、あまりの予想だにしない出来事に、俯いたまま何も話すことができなくなった。
 

 
「おい、どういうことだ?話し合って前から決めていたことじゃないか」
 

「……」
 

「理由もなしに聞き入れられないぞ」