ミツが貪欲にも、喜々として八重に前園家へ嫁ぐよう言ったのには、理由がある。
八重には父親がいない。八重が幼い頃疲労困憊し、若くして死んでしまったのだ。幼い八重と、心底愛したミツを置いてひとり。
男は、名を小塚晶造と言った。
「……晶造さん、私は八重に幸せになって欲しい」
ミツは、部屋を飛び出した八重により座敷に一人座り込み、今は亡き晶造の笑顔を思い浮かべた。
ミツは、経済的に余裕のあることが幸せだとは思っていない。思っていないが、幼い頃から家事や仕事をさせて、自分が苦労させてきた娘をどうにか楽にしてやりたいと思っていた。
父親がおらず、年頃だというのに化粧をする色気もない八重を、財閥の御曹司が嫁に来いと言うのだ。
断る理由はないし、断っては多大な顰蹙を買うだろう。

